しまなみ海道は今や世界中のサイクリストが一度は訪れてみたい場所。その起点である広島県尾道市に昨年誕生した「ONOMICHI U2」は日本初“サイクリスト向け”を謳ったホテルもある総合施設。すでにサイクリストから絶賛されているそのデザインとコンセプトをレポートするのは前回に引き続き“日本一のサイクリスト”田代恭崇さん。アテネ五輪代表のほか、現役ロードバイク選手時代は自転車の本場・フランスで自転車とともに生活し経験が豊富な田代さん。泊まり・味わい・乗って・見て、「ONOMICHI U2」をすべて体験してくれました。
サイクリングプランナー。04年アテネ五輪日本代表。チームブリヂストンアンカーに所属し、ヨーロッパプロレースや全日本選手権等多くの優勝を飾る。14年サイクリングイベントやスクール、コーチを行うリンケージサイクリング株式会社を湘南にて創業、人気を博している。
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「県営上屋2号」倉庫をリノベーションした「ONOMICHI U2」の建物。
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入って右手側に自転車メーカー「GIANT」のショップ。ベーカリーとカフェ、バー、そしてショップがある。
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「HOTEL CYCLE」側からショップ方向を眺める。手前は名和晃平氏が監修を務めるULTRA SANDWICH PROJECTの作品。
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「ONOMICHI U2」の海側は散歩にもポタリングにも気持ちのいいウッドデッキが続く。
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「Yard Café」にはデッキ側にサイクルスルーカウンターがあり、ドリンクやフードをデッキで楽しめる。
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スムージーは旬の野菜が摂れるオリジナルレシピ。店内はオーガニックな空間でくつろげる雰囲気。
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潮風を感じながらデッキでのひとときを過ごす。
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尾道は瀬戸内の中でも造船が盛んな地域。湾内に浮かぶ船を眺める、贅沢な時間。
瀬戸内海に渡された7つの橋、そこから眺めるダイナミックな風景。道路に記されたルートを示すサイン、無料の休憩施設。今やしまなみ海道は世界各国からサイクリストが集まる、“サイクル・ツーリズム”の聖地となっている。しまなみ海道の始点、尾道にある「ONOMICHI U2」はサイクリストにやさしい施設やサービスをテーマに、ホテル・カフェ・ショップ・自転車ショップなどを備えた総合施設だ。ここまでサイクリストのためのものが揃った施設は国内のみならず海外でも珍しく、建築家・谷尻誠氏の洗練されたデザインも注目を集めている。
「ONOMICHI U2」を訪れる人がまず気がつくのは、空間の心地よさ。それは床素材に使われているデッキ材などの素材感、また、造船所が建ち並ぶ海を目前に眺められる尾道らしい景色も、もちろんある。しかし一番は、「自転車をストレスなく移動させることができるデザインは、結果的に誰にとっても心地よいデザインなんだ」ということだ。自転車を引いて建物内に入り、室内のサイクルハンガーに自転車を置いてスムージーを飲む。あるいはまた外に出てウッドデッキを散歩する。その間、段差があるところにはすべてスロープが設置されている上、両手が荷物や自転車でふさがっていても、ドアを開かなくてもいいことに気づくだろう。
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「HOTEL CYCLE」のフロントデスク。全国初、自転車と共にチェックインできる。
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「HOTEL CYCLE」の2階から。自転車は全室持ち込めるほか、フロントデスク横のスタンドに置くこともできる。
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客室は一段高いしつらえになっている。
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スタンダードツインルーム。木や石を内装に用いた落ち着いた空間。
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デラックスツインルーム。壁に2台分のバイクラックがある。自転車も壁のインテリアの一つに見える。
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バイクラックは自転車のハンドルバー部分を使ったオリジナルのもの。
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ホテルのロゴ入りカップ、メモパッド、クラシックなラジオなど、ディテールまでデザインされている。
広島出身の建築家、谷尻誠によってデザインされた「HOTEL CYCLE」のデザインは実に上質でシンプル。無垢の木の自然な風合い、尾道の造船を思わせる鉄、ガラス、タイル、石など、素材感とテクスチャーをシックに組み合わせ、落ち着いた大人向けの空間となっている。これは自転車客でなくても泊まってみたくなる“デザインホテル”だ。「Cycle, Travel and Good things」(自転車と、旅とよきもの)というテーマのこの施設は、ここを訪れる旅人を心地よく迎えてくれる。
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朝食は「The RESTAURANT」のスペースで。
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食事やサービスといったサービス面にも「Cycle,Travel and Good things」のテーマは表れている。例えば朝食に並ぶのは、「ONOMICHI U2」内のベーカリーからの焼きたてのパンや瀬戸内の旬の野菜を中心としたサラダバー。スイスのチーズラクレットを温めてサーブするなど、グローバルな視点での「よきもの」が並ぶ。
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「ONOMICHI U2」ができたことで尾道に“場”が創られた。「尾道のプロジェクトU2は、人の関わりをつくるプロジェクト。建築をつくるのと同時に、人が交わることを考え、街を知ること、出来事をつくること、たくさんの”コト”が、そこには存在していく。モノの時代からコトの時代にと言われる昨今だけれども、建築をつくる身としては、やはり建築というモノと出来事の関係を考えながら、その場所だからこそ実現可能な体験を提供していきたいと思う」
CYCLEが指すもの、それは「時間の流れ」「循環」そして「自転車」と谷尻さんは言う。つまり、一見「サイクリスト向け」のデザインが心地よい理由がここにあるのだろう。
谷尻さん出演のコンテンツはこちら
CREVIA TIMES No.27 LIVE「谷尻誠の広島建築探訪」
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僕はもともと大学のサイクリング部の出身なんです。だから、自転車に荷物を積んでいろんな地方をのんびり旅していました。僕の自転車の原点はそこにあります。それが、卒業前にたまたまヒルクライムなどのレースに出てみたら、優勝したり、いい成績がとれたりなどして「もしかして自転車の才能あるのかも?」と。あと就職時が超氷河期の時期でまったく就職がなかったのとで、ロードバイクのプロ選手を育てる、という監督の門を叩き、自転車選手としての人生がスタートしたんですよね。氷河期だったおかげで人生がコペルニクス的転回をして、最終的にはオリンピックにも行けたことになります(笑)。
プロ選手になってからの6年間はほぼフランスにいました。マルセイユ、トゥールーズ、あとパリの北部。そこの地元チームに籍を起き、ヨーロッパ中のレースに出るんです。ヨーロッパではロードバイクはサッカーと同じくらい人気で、生活の中にロードバイクがあるんです。自転車が高価なものだと皆知っているので、お店に入って「中に置いておきたい」と言っても断られたりすることもなく、ストレスなくロードバイクと生活できました。 -
ロードバイクは室内保管が基本ですから、日本に帰ってきて一番困ったのは置き場所です。一時期、わずか19㎡の部屋に3台の自転車と寝起きをしていたこともあります(笑)。
今回「ONOMICHI U2」を初めて訪れて、自転車に乗ったままチェックインできることに衝撃を受けました。フロントデスクの横に、スタンドがあって預かっていただける。あるいは部屋に自転車を持ち込んで置いておくこともできる。世界でもここまで進んだホテルはなかなかないんじゃないでしょうか。
僕は今湘南でサイクリング・イベントの会社「リンケージサイクリング」を立ち上げ、日々初心者から上級者まで、レベルに合わせて、自転車に乗ることを楽しんでもらえるようなライドを提供しているのですが、いつも困るのが「お昼を食べる場所」なんです。駐車場はあっても自転車置き場がない、自転車置場があってもラックがない。だから、ラックがあるお店は積極的にうかがうようにしています。
しまなみ海道は世界でも注目されているサイクリング・エリアですし、この「ONOMICHI U2」のデザインが地域のお手本となって、ラックが置いてある店が増えるといいな、と思います。それが全国に広がるといいな、と。
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