
そんな上勝町にあって、ある意味「理想の暮らし方」をしている、と、田中社長やRISE&WINのスタッフがお手本にしているのがアーティストのダヨネさん。彼は上勝町の中でも山頂に近いところで自給自足の生活をしています。電化製品はラジオ1個と、裸電球1個だけ、昭和というよりも明治時代のような暮らし方を、無理なく自然に営んでいます。

ダヨネさんの自宅は山中の上勝町の中でもさらに山頂のほうにあります。「生活に便利なのは川下だろうけど、昔から上勝の人は山の上に家を持つのがステイタスだったみたいネ」元々農家の納屋だった古民家を住居に改造した簡素な住まい。

細かく種類別に並べられた薪。ダヨネさんはこうやって美しく並べることが楽しいからやっている、と笑うのです。

水場は外。冬場は手がかじかむなかでの台所仕事となるが、「冷蔵庫が要らないんダヨネ」と笑います。世界各地を放浪してきてダヨネさんの食卓は国際色豊かで、特にネパール料理がお手のもの。棚には神戸の輸入会社から取り寄せたというスパイスが整然と並んでいます。ビン類はすべてリユース。

「おくどさん」と呼ばれるかまど。煮炊きはすべてこのかまどで行います。手際よく火を起こしていくダヨネさん。「かまどに火が入るとウチが暖まるんダヨネ」

今日ダヨネさんが作るのはネパールで修行中によく食べていたというカレー。野菜はすべて自家製。じゃがいものカレー、ほうれん草のカレー、玄米ご飯にダル豆のカレーをかけたもの、アチャール。これを指でまとめて押しこむように食べます。

元々静岡県生まれのダヨネさん。建築業などに携わりお金を稼ぐと海外へ旅に出る、という生活を長年送ってきました。世界中を旅し、ある時にはパリの蚤の市で古い自転車を手に入れたので、アルプスーピレネー山脈を走ってヨーロッパを横断したり。そのうち「どこかに落ち着きたいからこれからは自宅で楽しめることをやろう」とチベット版画の師匠に弟子入りし、版画を学んだとのこと。聞けば聞くほどスケールが大きくて破天荒なのですが、いきいきしています。上勝町はふらっと旅をしていてとても気に入り、住まうようになったとか。

ダヨネさんの居室兼アトリエは2階にあります。今まで制作した作品がきっちりを並べられた部屋。唯一の電化製品はラジオ1台のみ。シンプルで余分なものがありません。

ダヨネさんが制作するのは塗り絵、切り絵、チベット版画。滞在中に書いていたという日記には細かい文字でびっしりスケッチが描かれています。チベット版画は「道具を作るところから始まる」そうで、その道具の作り方も。あまりの精密さと斬新な色使いにため息が出ます。作品を欲しいという人も多いそうですが、「作品を欲しい、買いたいって言う人には『じゃ、一緒に作りましょうか』って言うの。だって、そのほうが楽しいじゃない?」と笑うダヨネさん。仙人、と呼ばれるゆえんです。

「今の時代、めんどくさいんだったらガスで火使えばいいんダヨネー」とニコニコ笑いながら話すダヨネさん。楽しいからかまどで火を炊く。人を招いてネパール料理を作る。版画や切り絵を教える。その姿勢はどこか「34種類のごみの分別なんて、ってみなさんおっしゃいますけど、めんどくさくないの。誰だってできることなんです。それに、分別したものが資源となってお金になるとわかっていれば楽しいでしょ?」ときっぱり話す、町の人の姿にも重なります。便利を手放すことは、イコール不便ではない。大事なのは生活を楽しむかどうか。上勝町のサステナブルな取り組みが続いているのは、そのあたりに理由がありそうです。