フランス人にとってはごく当たり前であっても、日本人にはまだまだ馴染みの浅い「ヴァカンス」。休む時間を惜しみ、日々一生懸命働くことで生活を豊かにしてきた日本人が、この文化をすぐに理解し、採り入れることは簡単なことではない。がしかし“休む事も大切”というのは誰もが皆が理解している。もちろん、ただお金を使い、豪華に過ごすのが「ヴァカンス」ではなく、豊かな生活の為、心にゆとりを持たせ、充電期間としての「ヴァカンス」というものを少し考えてみてもいいかもしれない。それでは早速、その生活をのぞいてみることにしよう。
パリ在住。ヨーロッパをベースに世界の映画人の取材を手がける他、カンヌ、ヴェネチア、ベルリン等の映画祭に赴き、業界の動向をチェックしている。
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年間に五週間の休みを取る権利が法律で認められているフランス人にとって、「ヴァカンスは“レゾンデートル(存在理由)”」なのだという。これがあながち大袈裟でもないということが、毎年夏になると実感させられる。7月14日の革命記念日を境にパリから民族大移動が始まる。高速道路は渋滞を極め、シャッターの閉まった閑散とした街を埋めるのはツーリストばかりとなる。とくに深刻なのは、毎日の主食を扱っているパン屋が一ヶ月近くも店を閉めてしまうということだ。そんなわけでパリ残留組は、スーパーで売っているできあいの不味いパンや冷凍ピザなどで凌がざるを得なくなる。フランスで大人気の映画シリーズ『レ・ブロンゼ』のように、ヴァカンスの珍道中をネタにした作品が多いのも、いかにこの国でそれが定着しているかを物語っているだろう。だが、そんな彼らの伝統的ヴァカンス流儀にも、徐々に異変が起きている。理由はいろいろあるのだが、もっとも直接的なのは経済危機による不景気。少しでも倹約をと、ハイシーズンの高く混んでいる時期を避ける人々が増えてきているのだ。
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ヴァカンスの時期、以前ならば、リッチなブルジョワたちは南仏や大西洋岸のリゾート地で優雅に日焼けにいそしみ、そうでない人々はキャンプや民宿のような手頃な場所でまったりと滞在を楽しんだ。あるいは、引退後の静かな老後を送るため田舎に土地を買い、ヴァカンスの度にそこに通って自分たちでこつこつと家を建てる例も。いずれにしろ、ヴァカンスはなるべく長く一カ所に、というのがこれまでの傾向だった。それが最近では、ヴァカンス休暇が全体的に短くなっていると同時に、たとえば7月に一週間、8月に二週間というように小分けにして休むパターンが目立つようになった。グローバル化の波で、さすがのフランス人も一ヶ月以上も仕事を停滞させていては競争社会で生き残れない、というシビアな事情に加え、旅行業界のインターネット化により、ぎりぎりまで待つと価格が安くなるパッケージ商品などが登場し、直前でも旅行の計画が立てやすくなった背景があるようだ。
行き先もフランス国内に留まらず、海外に出る人が増えている。ある大手旅行代理店によれば、特に二十代や三十代の若い世代は、手頃に新鮮味が味わえるヨーロッパの近隣諸国に出掛けることが多いという。地中海や、フランス語圏のモロッコ、チュニジアといった北アフリカ方面の人気は相変わらずだが、このところ注目されているの バルト三国。2004年に三国揃ってNATOとEUへの加盟を実現して以来、開発が進み、近年は小洒落たプチホテルなどもできている一方で、西ヨーロッパに比べるとまだまだ物価が安いのがウリであり、そこも人気となっているようだ。
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今回取材をさせてもらったデルペッシュさん一家の場合は、この夏2回に分けてギリシア旅行を楽しんだという。1回目は三人の子供をご主人の両親の元に預け、友人たちとヨットを借りて、大人だけのアドべンチャラスな地中海クルーズに出かけてきたという。そして2回目は、家族水いらずのゆったりとした滞在型を満喫。子供たちは10歳、8歳、6歳とまだやんちゃ盛りだが、それでも目的別に異なるヴァカンスの醍醐味をしっかり味わえるとは、なんとも羨ましい限りだ。デルぺッシュさんのヴァカンス例はまさに、いまの若手世代の代表といえるものだ。
子供がいても、ヴァカンスはヴァカンス。日本人にはなかなか真似のできないこのあたりの割り切り方も、早くから“親の子離れ”がなされ、徹底した個人主義教育が浸透しているフランス的なエスプリの反映なのかもしれない。ともあれ、現在は型にはまったヴァカンスから脱却し、よりオリジナル性の高い、臨機応変な旅のスタイルへと大衆の嗜好が変化しているのは確かなようだ。
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