生活に欠かせない「光」。かつては単に「点けるか点けないか」という二択だった照明は、今やシーンに合わせて「調整し、使い分ける」ものへと進化している。一日の終わりにリビングでくつろぐ時間や、家族と食卓を囲むひととき。そんな日常の心地よさをさりげなく支えているのが光のあり方だ。
建築設計事務所 TATO DESIGN(タトデザイン)代表を務める大山啓氏が大切にしているのは、「暮らしに寄り添う灯りで、心地よく暮らす」こと。「ほんの少しの工夫で、空間の見え方や住まいの質は驚くほど変わる」という。今回は大山氏に、日常の暮らしに取り入れやすいアイデアを、実例とともに伺った。まずは光から、住まいを見直してみてはいかがだろう。
建築設計事務所 TATO DESIGN(タトデザイン)代表。
主に住宅や商業施設(店舗、オフィス、ショールーム等)のデザイン・設計を手掛ける。個人の感性と空間の個性を重視した丁寧な空間づくりに定評があり、多くの住まい手から信頼を得ている。
TATO DESIGN
https://www.tatodesign.jp/
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リビングは、家族が集い、最も長い時間を過ごす場所。だからこそ大山さんは、「明るくしすぎないこと」を大切にしているという。基本となるのは、空間をやさしく包み込む間接照明だ。光源が直接目に入らない柔らかな光は、壁や天井に反射しながら穏やかに広がり、心身の緊張をゆるやかに解きほぐしてくれる。
リビングでは、少なくとも二つのシーンを想定しておくとよい。・くつろぐための少し落とした光
・人が集まるときのやや明るめの光そのためには、複数の灯りを組み合わせる「多灯照明」が効果的だ。間接照明をいくつか配置することで空間にリズムが生まれて、部屋に奥行きが生まれる。例えば、部屋の角にスタンド型の間接照明をひとつ置くだけでも、空間の表情は大きく変わる。壁に当たった光が柔らかく反射し、部屋全体が穏やかな明るさに包まれる。大山氏によれば、3か所ほどに灯りを置くとバランスが取りやすいという。
光の重なりが生み出す微妙な陰影は、空間に奥行きを与える。それは単に部屋を照らすだけではない、住まいに心地よい時間をもたらす灯りだ。
ダイニングルームでは、食事の時間に合わせてあえて全体の光を落とし、食卓の上だけを浮かび上がらせるようなライティングを試してほしい。部屋全体を均一に明るくしすぎると、視覚的なノイズによって意識が散漫になりがちだが、適度に光を絞ることで自然と目の前の料理や会話に心が向くようになる。夜のレストランを思い浮かべれば、限られた光がいかに親密な雰囲気を醸成するものかがわかるだろう。控えめな灯りは、食卓の時間をより濃密なものにし、家族や友人との絆を深めてくれるはずだ。
一方で、まだ小さな子どもがいる家庭では、ダイニング全体を明るく保つことが安心感につながる。空間の隅々まで光を届けることで視覚的な情報量が増え、子どもの細かな動きを常に見守ることができるからだ。語らいのための「静」の光と、家族の活動を支える「動」の光。そのグラデーションを日々のシーンに合わせて使い分けることが、住まいの質を高める鍵となる。
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ワークスペースでは、必要な場所をしっかり、適切に照らしたい。仕事や読書など、視線が向かう範囲は限定されているため、デスクライトやスタンドライトを活用して手元に光を集めるのが効果的だ。部屋全体を漫然と明るくするのではなく、必要な箇所に光を絞ることで作業に対する集中力が高まる。

また、最近では調光・調色機能を持つ照明も増えており、これらを賢く活用したい。高い集中力が求められる場面では、文字がくっきりと見えやすい白っぽい光を。作業の合間や疲れを感じたときには、温かみのある光に切り替えて心身を緩めるなど、用途に合わせて光を調整するのもおすすめだ。デスクに添えた小さな灯りひとつが、ワークタイムの快適さを変えてくれる。
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寝室は、一日の疲れをリセットし、心と身体を深く休ませるための聖域だ。大山氏が特に意識しているのは、横になったときに「光源が直接目に入らない」こと。そのため、部屋全体を照らす天井照明に頼るのではなく、壁付けのブラケットライトや重心の低い照明を取り入れ、光が直接視界に飛び込まない工夫を凝らすことが多いという。

枕元には、手元を優しく照らす小さなテーブルライトを。入眠前の読書灯として活用するのもおすすめだ。柔らかな灯りに包まれた寝室は、昂った神経を静かに落ち着かせ、翌日へと向かうための豊かなくつろぎの時間をもたらしてくれるだろう。
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子ども部屋は、成長とともに使い方が刻々と変わっていく空間だ。そのため大山氏は、照明を「固定された設備」と考えすぎないことを推奨している。そんな柔軟な役割に適しているのがレールライトだ。これを活用すれば、成長に合わせて照明の位置や数を簡単に調整することができる。

幼い頃はリラックスできる柔らかな灯りを中心にし、成長して学習の時間が増えれば、勉強に適した明るい光を足していく。特に文字が見やすくなる「白っぽく鮮明な光」は、学習の質を高める助けにもなる。照明を固定せず、暮らしの変化に合わせて軽やかに変えていく――。そんな柔軟な考え方が、子ども部屋に心地よい環境をもたらしてくれる。
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お気に入りのポータブルランプを置くだけで、空間に洗練されたアクセントが加わる。コードレスの自由さを活かし、気分に合わせて光を移動させるのも楽しい。


部屋の隅にスタンドライトを配し、あえて壁を照らしてみる。反射した柔らかな光が壁面に広がることで、空間には奥行きを、心には静かな余白をもたらしてくれる。


大切な絵画やオブジェにはスポットライトを。陰影が深まることで作品の表情が際立ち、住まいにギャラリーのような一角が生まれる。


読書の相棒には、光源が直接目に触れないシェード付きのスタンドライトを。温かな光は、ソファの傍らを自分だけの静かな世界へと変えてくれる。
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大山氏の設計は、そこに住まう人がどのような一日を送り、どのような瞬間に心地よさを感じるのか――そんな目に見えないライフスタイルの断片を丁寧に紐解くことから始まるという。
照明計画において、大山氏が最も大切にするのは「誰がどこで、どう過ごしたいか」という極めて個人的な視点だ。日本の住まいは、オフィスのように部屋の隅々まで均一に照らしてしまいがちだが、煌々とした光の下では、心はなかなか休まらない。「明かりは単に点けるか消すかの二択ではなく、もっとグラデーションがあっていい」と大山氏は語る。光源をあえて隠し、壁や天井に光をバウンドさせて、その反射を楽しむ。そうして生まれる柔らかな光の濃淡は、空間に豊かな余白をもたらしてくれる。光によって空間を緩やかに区切り、一つの部屋の中にいくつもの異なる居場所をつくること。それが、住まいで光を操る醍醐味だという。

マンションのようにあらかじめ照明の位置が決まっている場合でも、工夫次第で光の質はいくらでも変えられる。例えば、部屋の角にスタンド型の照明を置き、壁に向けて光を当てる。それだけで壁面に奥行きが生まれ、空間の表情は大きく変わる。近年は、スマートフォンのアプリで調光や調色を自在に操れる電球も普及している。「大掛かりなリノベーションをしなくても、電球ひとつ、あるいはスタンドひとつを今の暮らしに添えるだけでもいい」と大山氏は言う。その小さな一歩が、見慣れた日常の解像度をぐっと引き上げてくれるからだ。理想の光を見つけるために、自分が心地よいと感じるホテルやレストランの照明に意識を向けてみるのも、よいヒントになるだろう。
大山氏自身は、「煌々とした照明は落ち着かないので、できるだけ最低限の光で暮らしたい」と明かす。日中は移ろう自然光をそのままに受け入れ、夜は調光でその時の気分に寄り添う明るさへと整えていく。そうして光の重なりを慈しむ時間は、単なる「部屋」を、かけがえのない「住まい」へと育ててくれるはずだ。
左)視線の先の柔らかな光が、住まいに奥行きと温かみを添えてドラマティックな空間に。右上)天井にも間接照明を取り入れることで空間全体が柔らかく整う。右下)玄関の足元に広がる穏やかな光が緊張を解き、プライベート空間へと優しく迎え入れる。
下)透過するガラスのランプが、空間に軽やかな情緒とリズムをもたらす。 -
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