千年の都・京都の街には「老舗」がたくさんあります。伝統を守り続けてきたからこそ続いたのでしょうか。いえいえ、「時代に合わせて変化を恐れなかったからこそ、続いてるんです」と京都人はおっしゃる。
100年以上続いてきたから、この先100年続いていく、時代に合ったものづくりを目指すのが“GO ON”(ごおん)というプロジェクト。
彼らに世界中のデザインに敏い人たちが注目しています。
”GO ON”プロジェクトプロデューサー。電通のインドやシンガポール支社など人生の半分を海外で過ごし、日本の文化を見直したいという思いとともに帰国後京都支社へ。「京都は世界と繋がっている」をいう思いを分かち合える伝統工芸に携わる仲間たちと”GO ON”を立ち上げた。
GO ON
goon-project.com
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例えばクリスチャン・ディオールのショップを彩る華やかな壁紙。最高級腕時計で知られるフランク・ミューラーの展示会のしつらえ。「GO ONとは京都の伝統工芸の若い後継者達のプロジェクトユニットです。自分たちの技・素材を国内外の企業やクリエイターに提供し、今までにない新しいものを生み出していきます」と説明してくれたのは、このプロジェクトのプロデューサーを務める各務亮さん。「ユニットのコアメンバーは6人。この開化堂カフェを運営する茶筒の老舗『開化堂』の八木隆裕さんももちろんメンバーなんですが、ここにはある意味他のGO ONメンバーの作品が集結した、GO ONらしい場所なので、まずがここからご案内しましょう」
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『開化堂』とは、日本最古の手作り茶筒の老舗。130もの工程を経て制作される銅の茶筒の素晴らしさは、蓋を閉めてみれば分かる。力をいれずともすっと収まっていくのだ。使い込むうちに色が変わり自分のものとして愛着が湧く、そういった経年の様子も、このカフェ内の棚からうかがうことができる。
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カフェ内にあるGO ONメンバーの作品。左・『開化堂』の茶筒の技術を活かしたランプシェード。右上・400年もの間茶人に愛されてきた『朝日焼』の花生け。右下・客用の荷物かごも『公長齋小菅』のもの。
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GO ONが目指すのは、伝統工芸の高い技術を活かし今の時代のニーズに合ったものづくり。上・試作中である『金網つじ』のコーヒードリッパーと『中川木工芸 比良工房』のホルダー。下左・『朝日焼』の珈琲茶碗も販売されている。下右・海外にもファンが多い『金網つじ』の茶こし。
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『金網つじ』のドリッパーを使って珈琲を淹れていただく。
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GO ONの伝統工芸に囲まれた店内だが、伝統を前面に強調しているわけではなく。和のエッセンスをモダンなインテリアにいい塩梅で配した心地よい店内で、ゆっくり過ごす客が多い。海外からもひっきりなしに訪問客が訪れる。「伝統工芸ってモノそのものだけではありません。このカフェはお茶文化も発信する場所となっています。そういう意味でも、GO ONが目指すものを感じていただけるかと」(各務さん)
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次に各務さんに案内されたのは高台寺の参道にある京金網の老舗『金網つじ』。オーナーの辻徹さんは各務さんと絶妙な掛け合いをしながら店の紹介をしてくれた。「京金網はもともと仏事に使われる香炉のほやなどを制作するところから始まった技術です。その後、とうふすくいなど、京料理を支える調理道具として発達してきました。手仕事なのでそりゃ見た目は美しいでしょ。でもこれは日常で使う道具として発達した技術だから、僕がモットーとしているのは道具として優れていること。つまり『美味しいものが作れる』道具なんです。コーヒードリッパーも既存の陶器やプラスティックより美味しく淹れられることを目標として試行錯誤してます」
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例えば、パンのCMで有名になったパン焼き用の網。これも、美味しく焼くためにセラミックの部分を工夫するなどして開発したところ、料理研究家の平松洋子さんやいとうまさこさんが「この網で焼いたパンが最高に美味しい」と絶賛。注文しても半年以上かかる人気商品だ。店内に展示された金網製品は買ってすぐ持って帰れるというわけでもないのである。「それでも、店はエンドユーザーとの接点が少ない職人にとってとても大事な場所」と辻さん。もう少し製品を詳しく見ていこう。
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写真上左・若手建築家である佐藤オオキさんとコラボしたランプシェード。素材の経年劣化をなくしたいという希望があった。上右上・とうふすくいも、どういった料理で使うのかで角度や編み方を調節する細やかさ。上右下・茶托。下・「海外に行ってそこのご飯食べてみるのも大事」と辻さん。その製品がどうやって使われるかを知って美味しいを最大限に引き出す道具を作る。
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「今年の3月まで金沢21世紀美術館で開催中の、プロダクトデザイナーの深沢直人さんがディレクションした『工芸とデザインの境目』っていう展覧会に製品を提供したんです。僕の製品はどこに展示されているか、と興味深かったんだけど、本当にデザインと工芸のちょうど中間に展示されていて、なるほどと納得しました」
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「昔はその国の文化に合わせる感覚がなく、日本料理を基盤に発展した製品そのままを売りに行ってたんです。製品は素晴らしいのに、なぜ売れないのか。それが、台湾で火鍋を食べた時に、このままのとうふすくいやとあかん、と。そもそも食文化が違うぞ、と。そこの国の食べ方・使い方に合わせた製品を作るようになったのはそれからです」(辻さん)
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「GO ONの6人のメンバーは、辻さんのように自らトライアンドエラーを繰り返した経験を持っています。それをみんなで分かち合って知恵にしていく。一人でやるより変化の速度は速いですよね」(各務さん)
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最後に辻さんが店の奥から取り出して見せてくれたのは、先代が作ったという見事な皿(左)とかじか網。「かじかっていうカエルがいるんですけど、この網の中でそのカエルを飼って、鳴き声を鑑賞するという。昔の人の風流な遊びですね」(辻さん)
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伝統を踏まえつつ、今のユーザーが求めるものを作る。辻さんの手仕事に、GO ONの姿がくっきり見えてきた。
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「ゴオンは5年前にスタートしたプロジェクトです。僕個人の話になるんですが、それまで人生の多くを海外で過ごし、ふと足元を見たときに日本の文化を思いの他知らないということに気づいて。社から『そろそろ日本へ』と異動のオファーがあったときに、京都を希望したのはその気付きがあったからです」とプロデューサーの各務さん。
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「京都へ住み始めて改めて発見したのは、京都は世界と繋がっている、ということ。世界中から京都へ、日本の伝統文化を求めて訪れる人たちがいます。また海外の人にとってもKYOTOという街は、日本の伝統を代表するブランドとして認識もされている。そんなこんなで京都の老舗を訪ね歩いているうちに、僕と同い年くらいの、伝統工芸の担い手の方たちと意気投合するようになったんです。その一人が西陣織で着物の帯の新しい用途を模索していた『細尾』の細尾さんだったり、ここ『開化堂』の八木さんだったり、コーヒードリッパーの網に挑戦している『金網つじ』の辻さんだったり。『100年続いてきた伝統工芸だけれど、この先100年後の仕事を作りたい』というみんなの想いに僕なりに貢献したいと思い。伝統工芸品は高価なものなので、その価値を分かる人に見つけて頂くことが大事です。」
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「僕は海外で仕事をした経験から、余所者の目線で、京都の方が当たり前に思いがちな京都の魅力を発見するのが自分の役割かなと思っています。京都の外どころか海外から来た僕の価値観を面白がってくれる、大事な仲間です。京都という街にある価値の再発見をするのは何も伝統工芸品だけに限った話ではなく、例えば京都太秦映画村に夜入ったら江戸時代に紛れ込んでいるみたいでしょ。そこで250人が参加するイベントを開催したりもしています。GO ONのプロジェクトは職人さんのモチベーションのためにも大事です。職人って大変な仕事です。今やっていることが何につながっているのか、その先の未来を共有する。これはライフワークだと考えています」
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GO ONの取り組みに感銘を受けた若い世代も、京都という街の価値を再発見するプロジェクトに取り組み始めた、と各務さんが案内してくれたのはミツヨシ路地。そこでこの路地にある長屋をホステルとして再編した三村友基さん(左)と松浦 拓平さんに出会った。
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「元々僕らは東京でそれぞれ仕事をしていたんですが、各務さんと知り合って感銘を受け、自分たちもこういうことをしてみたい、と京都に移住してきました。各務さんの下で勉強させてもらって、これから何をプロデュースしていくか、いろいろな案を出しては皆さんにダメだしされ(笑)。最終的にこのミツヨシ路地に出会った時に、『これだ』と思ったんです。長屋は昔たくさんあったのですが、今は時代に取り残されたものとして解体されることが多い。でも外から来た僕達にはその価値が輝いて見えた。今旅の志向は観光地めぐりをするより、『暮らすように旅したい』というふうに変わってきています。海外にも多いそういう志向の旅人なら、長屋に宿泊することに価値を見出し、楽しむだろうと考えたのです」
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真ん中にコミューナルキッチンがあり、宿泊者たちは旅の思い出をコミュニケートできる。また夜になるとともる提灯はGO ONとも関係が深い小嶋商店のものだ。
「このミツヨシ路地以外にも若手職人の展示・販売が自由にできる職人解放区として広げていく場所も作りました。京都の職人さんの高い技術に触れられる場所をこれからもプロデュースしていくつもりです」 -
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京都人の夢は御所の側に家を持つことだという。ステイタスの高いそんな場所に完成予定の『クレヴィア京都 御所西』にも、伝統工芸の高い技術を活かし今のライフスタイルに合わせた製品をつくり続けているイノベーターの一人がかかわっている。着物作家の斉藤上太郎さんだ。染色作家を祖父に持ち、上太郎さんで三代目。今の空間にマッチするファッションとしての着物づくりに挑戦してきた。そんな斉藤さんが、このマンションのエントランスをプロデュースしている。
ミュージシャンのYOSHIKIなどの舞台衣装なども手がける斉藤さん。「京都というのは、その時その時で最先端をやってきたから生き残ってるんです。伝統工芸である京友禅も古典柄はそれは美しいけれど、今着たいものじゃない。どういう着方がいいか、帯の仕立てはどうか、ヘアメイクはどうか、それを毎回極めるためにファッションショーを開催し、スタイルを発信しています。50年後、100年後に着物があるために、大事なんです」(上太郎さん)
そんな斉藤さんの試みに評価が高まり、10年くらい前から着物以外のファブリックのデザイン、ソファや壁紙のデザインをお願いしたい、というオーダーが入ってくるようになった。
「そこでインテリアのデザインもスタートしたのですが、着物と違うのは、工業製品としてレギュレーションをクリアするものでないといけないということ。帯地を普通にそのまま使ったのでは、ホテルやレストランで多くの方が座るようなソファに要求される生地の丈夫さになりません」試行錯誤の末出来上がった和とモダンを融合したラグジュリアスなデザイン製品は、京都センチュリーホテルやザ・リッツ・カールトン京都などでも見ることができる。
伝統と今とを繋ぎ華やぐ。斉藤さんプロデュースのエントランスは、まさに『クレヴィア京都 御所西』のシンボルと言えるだろう。※掲載の完成予想図は設計図書を基に描いたもので、形状・仕様・色彩等は異なり、面格子・雨樋・溝・ドレン・一部手摺・物干金物・排水勾配その他施設機器等の表現を省略しております。予めご了承ください。調度品・家具・照明等は異なる場合があります。
※行政官庁の指導、施工上の都合及び改良のため設計・仕様・外構工事等に一部変更が生じる場合があります。予めご了承ください。クレヴィア京都 御所西
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