渋谷・ヒカリエやすみだ水族館などを手掛けた<インテンショナリーズ>は鄭秀和さん率いる建築デザイン集団。やってきた仕事は、モールなどの大きな建造物はもちろん、列車に電卓、寿司店の椅子に至るまで予想外のラインナップ。彼らに「建築家なのにいろんなものを手がけてますよね」と尋ねたら「デザインは出汁ですから」と意味深な答えが返ってきました。その言葉の真意とは?彼らの謎に、迫ります。
1968年生まれ。95年に建築を通したモノづくりを実践する「レーベル」として、インテンショナリーズをスタート。 建築のみならず、インテリア、工業製品、家具など生活におけるデザイン全般を手がける建築デザイン事務所インテンショナリーズ代表。
インテンショナリーズ
http://www.intentionallies.co.jp
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日本におけるデザイナーズホテルの金字塔とも言えるのが2003年の「ホテル・クラスカ」。35年前に建てられた「ホテルニュー目黒」という昭和な建築をリノベーション。家具店が立ち並ぶ目黒通りの象徴的なアイコンとなりました。
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このホテルのデザインを手掛けたのがインテンショナリーズ。東京という街の意味を考え"アジアにおける発信の意匠”を意識、"デザインしつくされているけれど、デザインを感じさせない”空間のために、インテンショナリーズが行ったのは、20世紀初頭の建築のように、建物全体を自らがデザインしたインテリアで統一すること。なるほど、「デザイン=出汁をひく」ヒントはこのあたりにありそうです。
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気軽に見られるインテンショナリーズのデザインと言えば、2012年にオープン、グッドデザイン賞も受賞している渋谷駅直結の複合ビル「ヒカリエ」。その11階のスカイロビーのインテリアが彼らの手によるものです。無料でWi-Fiが使えるロビーは誰でもアクセス可能な場所。高い天井高を活かし、モダンでシックなモノトーン中心の色使いでありながらどこか自然を感じさせる調和のとれた空間。渋谷での待ち合わせや時間つぶしをここで、と決めている人も多いかもしれません。その理由が「なんか居心地いいよね」だとしたら、インテンショナリーズの「出汁の罠」にハマっているのかも?
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移動するレストランとして2013年のスタート時からなかなか予約がとれないことでも有名となった「TOHOKU EMOTION」。青森県八戸駅から久慈駅まで運行し、新しい東北の魅力を発見できる企画としてJR東日本が運行しているこの列車、インテリアをインテンショナリーズが担当。
モダンなトーンながら、実は床敷物やキッチン窓には伝統工芸の技法「こぎん刺し」、オープンダイニングには久慈の名産である「琥珀」をイメージしたウォールライトなどが取付けられ、東北各県の特産を素材とした料理を味わいながら、車両の室内空間でも"東北”を楽しめるよう配慮されている。
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ホテル・クラスカのデザインが当時『Wallpaper*』の編集長だったタイラー・ブリュレの目に止まって紹介されたことをきっかけに、海外でもその名を知られるようになったインテンショナリーズ。近年は海外案件も数多く手がけている。例えばリゾート感あふれるこの建築は2010年に手掛けたバリ島のヴィラ「ITL Villa」。
その他台北郊外にある商業複合ビル「U-Town」は延床面積74万平方メートルという巨大なプロジェクトで、表参道ヒルズのロゴデザインなどを手がけるタイクーン・グラフィックス、ライティングデザインの内原智史氏とチームでソリューションを行っている。スケールがどんどん広がっている。どんなテイストになろうとも、どんなに巨大になろうとも、海外だろうとも、「デザインは出汁」の考え方は変わらないとか。
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国産家電なのに「カッコよすぎる」と一世を風靡した東芝の家電ブランドatehaca。その中心だった熊本浩志氏が同社を退社後スピンオフのような形で始めたブランドが「amadana」。atehaca時代から一環してクリエイティブを担当していたインテンショナリーズはamadanaでも引き続きデザインを担当していた。スタートした2004年から2010年まで、さまざまなラインナップの商品を発表し続け、今の日本を代表するデザイン家電ブランドとなっている。
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「建物=建築だけではないと僕は考えています」と、いきなり質問に対する答えが禅問答みたいなのですが、鄭さんにもう少し詳しくご説明いただきましょう。
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「フランク・ロイド・ライトの時代には、建築家は建物をデザインするだけではなく、建物にまつわるすべてをデザインしていたんですよね。旧帝国ホテルなんかを見てもそうですが、その建物の空間に合わせた椅子やライトなどぜんぶを、です。それが僕が武蔵野美大で建築を学んでいた何十年か前には、建築家は建物、プロダクトデザイナーが家具、インテリアコーディネーターがインテリア、など、事務所や職業によって1つの空間を作るという仕事が分断されてしまっていた。建築家の仕事は建物だけじゃないはずです」
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「最初の大きな仕事といえば、<サイレント・ポエッツ>がメジャーになる前にデビューイベントを仕掛けたんですが、当時SNSもなく、携帯もない時代。それでも1,000人集めたんです」その当時出会った人脈に、例えばamadanaの熊本社長がいました。「atehacaの打ち合わせで東芝で会ったときに、熊本さんに『以前名古屋でDJされた時、運転手しました』と言われまして。
音楽やイベントの世界で経験を積み重ねる中、「デザインで世の中に発信していく」ことができるのではないかと思い至り、インテンショナリーズを結成。「僕らがスタートしたのは『インテンショナリーズ業』と称し、全体をまとめる役割を担う仕事です」
全体をまとめる役割。ここでどうやらずっと話に出てきている"出汁”の話に繋がりそうです。 -
「建物って、人工的に作られたものの中では圧倒的にいる時間が長いですよね。でも建築デザインの多くは、どれだけ長い時間使われるかを考えていないと感じます。デザインが主張しすぎるとどんなに素敵なものでも邪魔に感じたりするもの。だから、いつも言ってるのは『出汁のような』というキーワードです。足さない。引いているんです。そしてどこにも属さない」
“出汁”というのは必ずしも和風ということではなく、そこにあってベースとなりながらも決して主張しないデザイン、ということ。
「それがあることによって全体が調和している。出汁って深いです。僕は料理も好きなせいか、デザインの手法を料理に例える場合も多いですね。インテンショナリーズのデザインは、出汁のように、滋味あふれるものにしたいと、考えています」 -
「御茶ノ水というハイクオリティな場所に合った、インテンショナリーズの回答が、このインテリアのデザインです」と説明してくれたのが、鄭さんとともにクレヴィア御茶ノ水を担当した相楽さん。(写真右)
「『デザインのあり方は出汁のようなものである』というのは、弊社の基本的な考え方です。というのは建物はあくまで住む人が主役。店舗などと違い長く住むものなので、キャッチーなコピーで引っ張れません。したがって、インパクトや派手さよりも、あくまで建築的な目線を心がけました」(相楽さん)リビング・ダイニング
小粒でピリリ、と山椒が効いている感じを目指したというインテリアは、カラースキームから制作。インテンショナリーズが最重視する全体の調和を図っている。
「調和に関して言えば、見えないところ、気づかれにくいところにもこだわっています。例えばモデルルームのダイニングに置いてあるグラスも背の低いグラスです。実際に住まわれる方のライフスタイルをイメージした結果、そういう選びとなったわけです」エントランス完成予想CG
インテンショナリーズがマンションを考えたらこうなった、というこのモデルルーム。ぜひとも足を運んで実際に見ていただきたい。
※掲載の室内写真はモデルルーム(Cタイプ・一部無償セレクト・一部有償オプション)を撮影(平成28年7月)したものに一部CG加工を施したものです。家具・植栽・調度品・造作家具等は販売価格には含まれておりません。メニュープランセレクト・無償セレクト・有償オプションについてはお申し込み期限があります。詳しくは係員にお問い合わせください。※掲載のエントランス完成予想CGは計画段階の図面を基に描き起こしたもので、形状・色彩・植栽等は実際とは異なります。また、植栽は、実際に植樹する樹形・枝ぶり・葉や花の色合いが異なる場合があります。特定の季節の状況を示すものではありません。また、竣工時に完成予想CG程度には成長しておりません。今後、施工上の都合及び改良のため、変更になる場合があります。
クレヴィア御茶ノ水
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