今すべての分野において、ネットやメディアの発達によりデザインのグローバライゼーションや均質化が進行している。だが建築の分野においては、世界の建築家は自分のデザイン・オリジナリティを盛り込んで多様化した建築作品を生み出している。数ある建築タイプの中で、世界の集合住宅にはどのようなユニークさや多様性が潜んでいるのか。海外でいま注目されている建築作品を通して、検証してみたい。
建築ジャーナリスト&エディター/日本建築学会会員/東京外国語大学フランス語学科卒 建築関係の雑誌・書籍の企画・編集・出版・執筆、講演、イベント企画、海外取材、海外建築ツアーの講師など手掛ける。主著に『世界の建築家51人-思想と作品』、『ヨーロッパ建築案内』1~3巻、『もっと知りたい建築家:アーキテクト訪問記』、『アメリカ建築案内』1~2巻、『世界の建築家51人:コンセプトと作品』、『建築家をめざして:アーキテクト訪問記』、『アーキテクト・スケッチ・ワークス』1~3巻など。
建物は今日のシンガポールを代表する話題の超高層マンションだ。ダウンタウンから車で5分ほどのケッペル湾という至便の地にある。光溢れる700mを超える風光明媚な海岸は、ケッペル湾の自然美に囲まれた美しい水景色そのもの。45エーカーの敷地に建つ建物は延床面積約185,000㎡、1,129戸の豪華アパートメントで、6棟の巨大なタケノコのようなスリムな高層タワー群と、6〜8戸からなる11棟の低層棟で構成されている。ふたつとして同じ形や同じサイズのフロアがないのが特徴だ。さらに目立つのは高層棟が直線的な垂直でなく、少し弓形に弧を描いている点だ。これは向かい合う2棟があたかも会釈をしているか、親子が会話をしているかのような心和む印象で面白い。高層2棟のうち高いほうは41階、低いほうは24階だが、高層棟の上層階は億ション。最上階はメゾネット・タイプで、スーパー・ペントハウス・バルコニーと呼ばれる半外部空間。シンガポール全域を眺望するパノラマは最高だ。
レフレクションズ・アット・ケッペル・ベイ/
Reflections at Keppel Bay
設計:ダニエル・リベスキンド/
Daniel Libeskind
写真は全て(C)Keppel Bay Pte Ltd.
- ケッペル湾海上から見たタワー群。水面に姿を落とすことからレフレクションズ・アット・ケッペル・ベイ(ケッペル湾の写像)という。
- ゴルフ場上空から俯瞰した高層集合住宅群。風光明媚なケッペル湾を背景にして屹立するシャープな姿はメタリックなタケノコのようだ。
- 対岸からケッペル湾全域を遠望する。眼下にヨットハーバーを見下ろす素晴らしい一等地にある。
- 最上階を占める超豪華スーパー・ペントハウスのバルコニー。外部はガーデンとなっている。
今ニューヨークは古い高架鉄道を改修した「ハイライン公園」が話題だ。この公園がチェルシー地区をよぎる辺りに屹立するのが、これまた話題のコンドミニアム「ハイライン23」だ。14階建ての建物は従来の集合住宅にはない構造的なスティール・ブレースを露にしたハイテク仕様。このユニークで斬新なスタイルが、界隈ではスレンダーなイコン的存在となっている。建物は接地面積は少ないが公園の高さを越えたあたりからキャンティレバーでせり出し、上階の住戸面積が拡大する。上階では下階に比べて40%も床面積が広い。11戸のうち9戸は各階全域を占有し、残りの2戸はメゾネット・タイプだ。 最上階のペントハウス・メゾネットは、モダニスト的なガラス・キューブのリビングをもち、特注の大きな引戸を装備。広さ約100㎡もあるプライベート・テラスへと開放する。周囲を巡る大きな開口部が、ドラマティックなニューヨークの都市景観やハドソン川への眺望をフレーミングする。
ハイライン23/High Line 23
設計:ニール・ディナーリ/Neil M. Denari
写真は全て(C)Neil M. Denari Architects
- 北側から見たエレベーション。ガラス開口部越しにスティール製の巨大なブレース(筋交い)が見えてメカニカルな雰囲気を醸す。
- ハイライン公園側を見上げる。メタリックな外壁が波打つように上昇し、ガラス・ファサードがオーバーハングしてせり出している。
- ハイライン公園ののんびりムードと対照的な、頭でっかちなガラスとスティール製のハイテク仕様の集合住宅だ。
- 最上階のテラスから見下ろした話題のハイライン公園。ごらんのように人気抜群の人出。
- 床から天井までフルハイトな開口部で内部は非常に明るい。さらにスティール・ブレースが内部に現れ、先端的なムードを加味している。
8ハウス・ハウジング/8 House Housing
設計:ビヤルケ・インゲルス(BIG)/Bjarke Ingels(BIG)
写真(C)Dragor Luftfoto, Jens Lindhe, Stange
- 上空から「8ハウス・ハウジング」を俯瞰する。南側コーナー部を斜めにカットして中庭に風と光を呼び込んでいる。
- 中庭越しに南方向に目を向けると、広い郊外の田園風景を見晴らすことができる。
- 中庭に面した外壁を見る。段状に上昇する住戸群と雁行する住戸群が巧みに配されている。
- 運河越しに見た神秘的な夜景。両スロープ屋根の低部にレストランがあり住民の生活に供している。
- 外部テーブルも置いてある広いテラスと内部空間は、大きな開口部で一体となる。
-
集合住宅という建築ジャンルは、他の建築に比較して派手なデザインはしにくい。特に日本の場合は国民性もさることながら、地震などの影響からかなり控えめなデザインが多い。外国の場合も同断だが、日本に比べると目立つ外観デザインが多い。だが日本の集合住宅は非常にきめ細かいつくりが持ち味だ。外観もいいが住み心地重視だし、近年は耐震性も向上して素晴らしい。 体験的なことだが海外の集合住宅に華やかなデザインは多いが、ディテールに難があるケースが多い。それは欧米人の遠目には鼻が高く彫りが深い顔立ちで見栄えはいいが、近づくと肌荒れなどが目立つのに似ている。 逆に日本の場合、近年は意匠を凝らしたいい作品が多いものの、外国のように遠目で目立つ大胆さは控えているが、近づくとディテールや雨仕舞いのよさなどがわかる素晴らしさがある。それはのっぺりした顔だが、近づくと分かる日本人の肌理の細かい肌に似ている。海外と日本の集合住宅について、大まかな自己流の例えだが僕はそう思っている。
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